徼光Boundary Lights2024Watercolor, paper650×402 (mm)Frame size 860×598×30 (mm)以下の文章は、2024年11月に、GALLERY KLYUCH(東京)2025年2月に、Space O(栃木・那須高原)で開かれた私の個展「徼光」の序文である。徼(きょう) - 無から有への、本質から作用への、無形の道のりから限りある物事への通路。境界。 ⸺ 2019年末、都心より那須高原へ住まいを移した。引越ししてきた当初、新たな土地への関心と、豊かな自然に魅了され、家の周辺をたびたび散歩したと記憶している。本展覧会の作品群は、その頃の散歩の体験が色濃く影響している。 草花のそよぐ様、透き通った小川の流れ、山にかかる雲、河原の石のそれぞれ、森の匂いもひとつではなく、落ち葉の深さはかつてないほどで、頭上に雲がない日に、山からの風に乗って吹き下ろす雪は、空気中を煌めきながら落ちてきて、地面に達するとあっという間に消えてしまう。それぞれが、その時々、全く異なる表情でいながらも、その場の全てを体現しているかのようだ。 散歩は、時折、別の領域へ移ることもある。その時々の仕事のことをぼんやり思い浮かべ、やるべきことは果たしてできたのだろうかなどと自問自答する。このままでいいのか、自分の未来はどうなるのだろうか、現実の光景から離れて、脳内へ向かって歩き出す。過去の事や、まだ見ぬ未来までも、ああだこうだと並べていく。気がつけば頭の中は、都市の雑踏のようである。 ふと我に帰ると、目の前には、那須の峰々が変わらずある。小川の音が再び耳に届く。ああそうだ、この峰々は、この瞬間にあること以外にはないのだ。 私は、私自身を、この瞬間から引き離そうとしていたことに気づく。峰々は、この瞬間であることをやめないから、今こうしてここにある。私は、この峰々の傾斜の中ほどにいて、おそらく本来的には、目の前の小川や、草花と、なんら変わりなく、この瞬間に、こうしてここにいるはずなのである。 そんなことを考えているうちに自宅へと帰り着く。制作を始める。いくつかの光景が浮かんでは消えていき、たった今置いた筆跡だけが紙の上に残る。いくつもの時間が今に連れられていく。